マルセイユの所々に置かれている流麗な噴水、中でも最も美しいと思われる3点を独断と偏見で選んでみました。尚、水という要素で涼感を出す目的もあるので、ほとんどの噴水では夏季 6−9月のみ水が流れています。夏季でなくとも本当に美しい装飾なので見に行く価値は充分にあります。
1. ロンシャン公園の噴水 Parc Longchamps
ロンシャン公園の噴水はもう見事と言うほかありません。左右に鎮座する2つの宮殿Palaisを大回廊が結び、その中央のモニュメントの台座から水が階段状に流れ落ち、前方の人工池に注いでいます。
海に面したマルセイユは19世紀前半、意外なことに水の供給が不充分で(1834年の統計ではマルセイユ市民1人につき1日12リットルの水しか供給されていませんでした)、この問題を解消すべくマルセイユ運河Canal de Marseilleが切り開かれ、1847年にここロンシャン高台に水がもたらされるに至りました。
現在街の至る所に噴水が見られるのはこのお陰かもしれませんね。
これを記念して1862年に建築家アンリ・エスペランディウにより、この噴水を擁する宮殿が建造されました。宮殿は翼を広げたような形に配置されており、一翼には自然史博物館(向かって右)、もう一方には美術館(向かって左)があります。
この宮殿、噴水を囲むように左右から階段が伸び、ここから左右の宮殿そして大回廊に登ることができます。その裏側は1869年にオープンした公園が広がっています。
トラム2号線のロンシャンLongchamp駅下車、徒歩2分(推奨)。メトロ1番線(青)のサンク・アヴニュー下車、徒歩10分。
2. カンティーニ噴水 Fontaine Cantini
2-1. カステラーヌ広場
カンティーニ噴水はカステラーヌ広場 Place Castellaneの中心に置かれています。
円形交差点自体は旧港ヴィユ・ポールとプラド・ビーチの中間に位置し、マルセイユ住民にとっての要地です。
かつてマルセイユ市街を取り囲んでいた城壁の南にはカステラーヌ広場、北にはエクス門があり、両者を一直線の道、すなわちエクス通りrue d’Aix、クール・ベルサンス通りCours Belsunce、ローマ通りrue de Romeが結んでいます。マルセイユの南北の軸を形成する重要な立地という訳です。
2-2. オベリスク
もともとここには1811年ナポレオン1世の息子、ローマ王の出生を祝ってオベリスクが建てられていました。
パリ・コンコルド広場には、ナポレオン時代にエジプトから贈られたオベリスクのオリジナルが設置されています。これを元に建築家パンショーが作成した複製がマルセイユのカステラーヌ広場に設置された訳です。この建築家はエクス門(=凱旋門)の建造を手がけたことでも知られています。
ただ、北のどっしりした凱旋門に対し、南のオベリスクは形の上で簡素すぎるという印象を受ける人もいたようです。当時この広場を訪れた外国人作家ジョゼフ・コンラッドも「みすぼらしいオベリスクがある」と書き残しています。
オベリスクがこの地に建てられてから丁度100年にあたる1911年、カンティーニ氏が寄贈する噴水を設置するため、オベリスクはマザルグ広場まで移されました。マザルグ広場は、凱旋門-カステラーヌ広場の軸の延長線に当たるミシュレ通りの南の突き当たりです。トラム3号線(緑)はこの軸にあたるローマ通りを走っていますが、2025年を目処にミシュレ通りまで延伸する計画です。
カンティーニ噴水に話を戻すと、これがカステラーヌ広場に置かれたことにより、堂々と南の一角を飾ることになったかと思われます。
2-3. カンティーニ噴水のモチーフ
マルセイユの著名な大理石職人ジュール・カンティーニの提案と資金提供により作成されたことから、カンティーニ噴水と呼ばれています。
1911年から1913年にかけ、トゥーロン出身で1869年のローマ大賞を受賞した彫刻家アンドレ・アラールにより創作されました。
この噴水の台座からは25メートルのコリント式の柱が聳え、その上部には街に向かってマルセイユの街を表す女性像が置かれています。この台座はローヌの流れを象徴しています。すなわち「泉」より流れ出た水が「奔流」(デュランス川とガルドン川)となって「ローヌ河」に合流し、それが「地中海」に注ぐのを表している訳です。
それぞれの神の周りにはナイアード(水の精)や漁師、海の生物が配置されています。
素材はイタリア、トスカーナ地方のカッラーラCarrara産出の大理石が使用されています。この地は古来より白大理石が採れる場所として著名でした。ミケランジェロのダヴィデ像もここの大理石で造られています。最も大きな塊は35〜50トンもするので、輸送費を軽減するため現地である程度削り取ってから運んだそうです。
尚、夏至を過ぎ酷暑の日でも噴水の水は流れていませんでした。システムが故障中なのかもしれません。何れにせよ芸術作品としての観賞価値は充分あります。
アクセス:メトロ1番線(青)・2番線(赤)でカステラーヌ駅下車。あるいはトラム3号線(緑)の終点。
3. エストランジャン噴水 Fontaine Estrangin
3-1. 噴水の設置、「不滅の精霊」
かつてこの場所には、1720年のペスト災害を乗り越えたマルセイユ市民の勇敢さを讃えて設置された噴水がありました。
現在の噴水の前身で、卸売業で財を成したアンリ・エストランジャン氏が寄贈、1802年9月16日にドラクロワ市長により落成式が行われました。塔頂には、バルテレミー=フランソワ・シャルディニー作の「不滅の精霊 génie de l’immortalité」像から鋳造されたのが置かれていました。
その後1839年にサン・フェレオル広場に移され、更に1865年に芸術の館Palais des Artsの近くにある図書館付き庭園に移されました。この彫刻の原型はロンシャン宮の美術館にあります。
3-2. 1890年設置の現在の彫刻
現在見られるエストランジャン噴水は1890年、建築家ジョゼフ・レッツ、ローマ大賞を受賞した彫刻家アンドレ・アラールとその弟ゴダンシ・アラールの作。ジャン・アレクシ・エストランジャン氏が市に寄贈したものです。噴水は2つの河川と4つの大陸を表しています。
台座上の彫刻は、マルセイユの女神に、商業の精霊 Génie du Commerce(少年)が寄り添い、地中海の女神が豊饒をもたらす図になっており、全体的に地中海を介しての商業によりマルセイユ が繁栄してきたのを表しています。
この少年の頭側面には羽がついており、ローマ神話における商業の神メルキュール(ギリシャ神話のヘルメス)を想起させます(メルキュールはかかとに羽)。占星術においては水星に相当し若さや少年を象徴するため、少年の形を取っているのかもしれません。
3-3. 噴水のモチーフ
台座の四方には男性の顔のマスクが彫られており、その口から第1の円盤に水が注いでいます。この円盤の4隅にはヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカを表す4体の女性像の彫刻があります(アメリカは植民を行なった民族でなく原住民の顔)。
加えて東側にローヌ河を示す男性像、西側にデュランス川を表す女性像が彫られており、それら全てを果物と花のガーランドが結びつけ華やかさを添えています。
男性像も女性像も上体を後ろに大きく反らせた姿には、思わず息をのむ美しさがあります。それにしてもケンタウロスみたいに人間の上半身と船を合体させてしまうなんて、何という大胆な発想。
円盤下部にイルカの頭が彫刻されており、水はその口から第2の円盤に注ぎ込んでいます。
この広場に面して厳かなフランス銀行(1885−1886年建設)と華麗なケース・デパルニュ銀行(1904年建設)が建っており、こちらの方も鑑賞に値します。
アクセス:メトロ1番線(青)でエストランジャン駅下車、徒歩0分。
まとめ
如何でしたでしょうか?ロンシャン公園の噴水、カンティーニ噴水、エストランジャン噴水の3つを取り上げましたが、実は他にも素敵な噴水があります。この視点で街歩きして、自分ならこの噴水をベスト3に入れる! というご意見があれば是非コメントして下さいね。
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