フランスにおけるコロナ・ウイルス

2019年12月に中国 湖北省 武漢で蔓延したコロナ・ウイルスが、今や世界に広まっています。日本や韓国でも感染が広がり欧米でアジア人が差別されるような状況も発生していましたが、皮肉なことに2020年4月初めには、アジアより欧米の方が酷い感染状況に陥っています。

この新型コロナウイルスの対策として世界各国で異なる対応を採っています。フランスに在住している日本人の立場から、状況や対応措置の違いについて記述したいと思います。

フランスにおけるコロナ防疫措置

その前にまずフランスにおける防疫措置について経緯を追っていきましょう。
フランスにおけるコロナに関する経緯を下に要約しておきたいと思います。

2019年12月 武漢ウイルス、通称COVID-19が中国 武漢で発生。
2020年3月17日 フランスにおけるロックダウン(都市封鎖、生活必需品や仕事以外の目的での外出禁止)開始、シェンゲン協定で定められた国境(一部例外を除くヨーロッパ)封鎖。

5月11日 ロックダウン解除 第1段階。100kmまでの外出は自由、これを超える移動は仕事や緊急性を伴う家族都合限定。店は営業を再開、レストラン、カフェは客席での飲食は禁止されたままで、テイクアウトやデリバリーによる販売のみ許可。

6月2日 ロックダウン完全解除。フランス国内の移動、レストラン、カフェでの飲食が可能に。

6月半ば、近隣諸国への移動も自由となり、その後シェンゲン協定で定められた国境の範囲内で移動が自由になる。店内やメトロ・バス等の交通機関ではマスク着用が義務。

9月初め、第二波の到来により、パリやニース、マルセイユ 等の都市では公共交通機関だけでなく、屋外でもマスク着用義務。

10月30日〜12月1日、再度ロックダウン。状況によっては延長も充分あり得る。食料品購入や医療機関、仕事に行く場合のほか、1日1時間1km以内の制限付きで散歩することが許可。その場合インターネットで入手できる証明書雛形に氏名、住所、上記外出理由、外出時刻を記入したものを携行する必要がある。

2021年1月16日〜5月18日。18時〜翌朝6時まで夜間外出禁止。違反した場合は135€、常習の場合は最大3750€の罰金。仕事上あるいは家族の面倒を見る等止むを得ない事由がある場合はその旨を明記した証明書(gouvernement.frでオンラインで入力し印刷、あるいはAntiCovidアプリで入力して表示できるようにしておく)、及びその事実を証明する書類を携行する必要あり。
2021年5月19日〜6月30日にかけて段階的にロックダウン解除。5月19日より、レストランやカフェはテラス席に限り営業再開。映画館や店も通常営業に戻っている。

2021年6月初め、フランスにおけるコロナ第3波がある程度収束したのを受け、日本からフランスへの移動はようやく認められることになりました。ただし日本帰国の際は3日間ホテルでの隔離及び14日間の自主隔離が求められていました。

7月12日、コロナ第3波到来を受けて新たな大統領演説が行われ、以下の日程で衛生パスポートの適用が義務付けられることになりました。専用アプリにQRコードを取り込むことができる

7月21日〜 50人以上が集まる娯楽及び文化施設(映画館など)
8月9日〜 カフェ、レストラン、大型商業施設、長距離移動の航空機・列車・バス

衛生パス取得条件は以下の通り。
・ワクチン摂取(基本的には2回、一度感染して抗体ができておりその旨の証明書を提示すればワクチン1回)。2回目を摂取してから7日後。
・PCR検査により陰性だった場合。ただし72時間以内に限る。
・抗体検査で陽性の場合(つまり一度感染し抗体ができている)。ただし検査から11日以降、6ヶ月間有効。

ただし、21年8月現在無料で行えるPCR検査も、秋からは有料化されることが決まっています。ワクチン反対派も根強く存在しますが、身体的不快感に加え金銭的犠牲を伴うPCR検査をずっと受け続けるか、社会的生活の不便(レストランにも映画館にも行けない)を強いられるかという状況です。参考までに8月初めの時点でワクチン摂取済みが4000万人なのに対しワクチン反対派の数は20万人程度です。

8月19日以降、日本に帰国する際ワクチン摂取済みの証明を提示すれば3日間の隔離が免除されることになり、ようやく自由に行き来できるようになりました。ただしこの時点です日本ではデルタ株を中心に感染が広がっており、フランスでも感染が収まっている訳ではないのでしばらく様子を見るのが賢明でしょう。

以下は2020年春当時のフランスでの状況です。

フランスにおけるアジア人差別について

フランスでは、2020年2月中旬のパリ、3月中旬のマルセイユ 、ニースで僕が体感した限り、特に東洋人だからと言って避けられるということはありませんでした。メトロでも普通に横に座るし、道ですれ違う時も避けられることもなくフランス人の民度の高さを感じました(かえって日本人観光客とすれ違う時に用心深い視線を感じました。こちらもそういう眼差しを送ってしまっていたと思います)。ニュースではイタリアを始め世界中で感染者が出ていることは報道されていたので、認識はありましたが危機意識はまだ低かったようです。

3月末からは欧米で感染が広がり、アジア人からうつされるという恐怖感は無くなったように思います。中国からもたらされた疫病ですが、不思議なことに中国人、アジア民族に対する差別は感じられません。どちらかというと外出禁止令が出された直後にパリ市民が別荘に逃げ出し、疫病が地方に広まってしまったという、フランス人自らの行動に対して批判が向けられています。

フランスで推奨される予防措置

フランスにおけるコロナ予防としては、1)咳やくしゃみをする時は肘の内側にする、2)手洗いをする、3)握手やハグをしない、4)ティッシュは使用ごとに捨てる、が掲げられ、テレビでも政府広報が流されています。

1番については、マスクを付ける習慣のない国民でも対応しやすくグッドアイディアと思いましたが、守る人はごく少数。

マスクは病人が付けるものというイメージがあるので、この頃は確かに道ゆく人を見るとみんな付けていませんでした。下手に付けて出歩くと保菌者と疑われ用心されます。世界保健機構(WHO)がマスクは予防効果なしと公表したことも国民がマスクを付けようとしなかった原因の1つです。

マスクはフランス政府の一存で早々と医療従事者用のために撤収、市中の薬局でマスクを買おうとしても品切れ状態でした。

国際機関のWHOがマスク不要と言っているので、あるいは使い捨てマスクを医療機関用に取っておくためなのか、フランス政府はマスク着用は推奨していません(相変わらず咳、くしゃみは肘の内側にするようにという指示)。日本では風邪をひいていなくても元々マスクをする習慣があり、とはいえ品切れで入手できない状況が続いているため、世帯ごとに洗って使えるマスクを2枚供給することが決まりました(4月8日現在でほとんどの世帯はまだ受け取っていないようですが)。世帯ごと2枚だけという批判はあるようですが、布製マスクでも予防効果はあるという国の方針が窺われ意義があったのではないかと思います。布製ならば、足りなければ自分で作ればいいんだという発想にもつながりますし。

3月末(2020年)あたりになると、ヨーロッパの方がアジアよりも感染状況が悪化し、アジアでは皆マスクをしているので、その予防効果が見直され始めました。メディアでも取り上げられるにつれ、市民レベルでマスク着用する人が増えました。実際には自分のための感染予防でなく他人に飛沫感染させないために有効で、フランスでも専門家はそのように説明しています。

このため4月初めには食料買い出しのために外出すると全員マスクをするようになりました。食料生産現場では仕事は続行している訳で、テレビでその映像を見ると、ここでもみんなマスクをしています。布製の手作りです。みんなお洒落なデザインのものを作っています。日本でも布製のマスクでいいんだという認識が広まるにつれ、このような綺麗な自家製マスクが広く見かけられるようになるのかもしれませんね。

県によっては外出時のマスク着用を義務付けるところもありましたが、マスクが薬局でも売店でも入手できないことから、4月9日内務大臣クリストフ・カスタネールから、義務でなく推奨に文言を変更するよう、知事に要請が出されました。

医療現場ではきちんとウイルスを防ぐ高性能マスクが必要になる訳ですが、これの品薄状態が続いており、中国から空輸することにより調達していました。6月からは市中でも使い捨てマスクをしている人が多くなりましたから、医療現場にも充分に行き渡っているのでしょう。日本でもかなり値段が下がっているようですね。

フランスのコロナ対策

早期クラスター発見により感染を食い止めワクチンが開発されるのを待つ日本。できるだけ多くの人に検査を受けさせ感染者を1人1人見つけていく韓国やイタリア、感染がまだ広まっておらず予防のためマスク着用を義務化する東欧(チェコ、スロバキア、オーストラリア)、集団免疫により感染症は自然に収束するという考え方に立脚するイギリス、オランダ、スウェーデン。

フランスはどうかというと…。医療崩壊を防ぐことが第一命題になっているように思います。マクロン大統領も医療崩壊を防がなければならないことを強調し、咳の症状が出ても検査に行かないように、医療機関のキャパシティを本当に治療を必要とする人たちのために取っておくようにとの呼びかけがありました。また先述テレビ番組の合間に流される政府広報では、症状が出た場合は緊急医療機関(番号は15)に電話するようにとの指示が明確に示されています。

高齢の両親、祖父母を思いやるなら、会いに行かず、手紙や電話で連絡を取りなさいというメッセージもありました。おそらく既に高齢者施設で感染が広まっていたこともこの時点で把握していたのでしょう。また若者が気軽に出歩いて感染し、無症状の場合が多いため無自覚に出歩いてウイルスをばら撒き、家族に感染させるということも、日本同様にフランスでも認識されていました。

ヨーロッパでは遺体の焼却が間に合わず、スケートリンクに安置するという処置が取られる国もありますが、4月に入って死者数が増えてきたフランスでもパリ郊外ランジスという生鮮食品の市場で保管するといった対応も取られました。

フランスで最も感染の多いのはパリ周辺とアルザスです。パリでは4月8日現在医療崩壊という言葉は聞かれず、まだ「崩壊」には至っていませんが、パリの病院が飽和状態で病床が欠如、ボルドーやトゥールといった地方の病院に移送されています。アルザス近辺の感染者は、療養の助けをしてくれているドイツに入院しているようです。

ある意味 日本と同様、積極的に検査を行わない方針を取っていたフランス。でも現在はコロナによる死者数を低く抑えるのに成功している日本に対し、フランスでは上記のように感染者も死者数もかなり増加してしまいました。3月中旬からの外出禁止令を守ってきた3週間後でも増加状態が続いていました。

日本は感染者数があり得ない程の低いレベルで、フランスの疫学専門家の意見としては信憑性がないようです。韓国のように、検査およびスマホのアプリで感染者の経路を把握するなど感染者の炙り出しに重点を置いても、治療法がない以上それだけでは意味がありません。ヨーロッパでは、武漢を都市封鎖した中国方式を採用しました。

武漢では4月初めに都市封鎖が解かれ、通常の市民生活に戻ったとのこと。感染が収束したというのが本当であれば都市封鎖により感染を封じ込めることができるという証明になります。ただウイルスの第2波が北京で実際に起こっているようで、まだまだ安心できません。

フランスにおける外出禁止令

3月16日(月)夜の大統領演説で翌日正午から2週間外出禁止となる旨公表されました。4日前の大統領演説で厳しい状況になっているから外出を控えるようにとの指示があったにも拘らず、天気の良い週末に国民が皆普段と変わらず公園や海で過ごしているのを見かねての措置です。このスピード感に国民はようやく切羽詰まった状況を理解したようです。

食料品店や薬局を除きほとんど全ての店は閉まっていますし、外出するには用事(仕事、食料買い出し、診療、自宅近辺1km以内1時間までの散歩)と外出日時を明記した特例証明書身分証明書を携行、違反すると38€の罰金支払いが課されることが決定されました。その後罰金は135€に引き上げられ、15日間で2回目に違反が見つかった場合375€、更に1ヶ月間に4回以上違反した場合は罰金3750€および6ヶ月の禁固が課せられます。

警察がコントロールします。1メートルの社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を置くことはこの国でも推奨されていますから、この距離を置いて提示します。

この外出禁止令、または都市封鎖は、武漢(2020年1月〜4月初め)、イタリア(3月中旬〜)、スペイン、イギリス、アメリカのいくつかの州でも実施されています。日本では早いスピードで感染拡大が見られた北海道で外出自粛が行われ(2月28日〜3月19日)、3月27日には東京都、神奈川でも外出自粛が呼びかけられました。それでも天気の良かった週末には花見に行くなど緊張感の緩みが見られ、また日本医師会からも勧告があり、4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に緊急事態宣言が出されました(効力は5月6日まで)。

欧米式と同じく生活必需品や医薬品購入のための外出は認められますが、警察によるコントールは行われない所が異なるように見えます。戦時統制など苦い経験があるためか、憲法上このような事態でも国が強権を発動できないとか。日本国民としては大人しく自粛要請に従うか、あまりに遵守しない人が多くて蔓延が止まらない場合は「それでは困る」と国民側から働きかける必要がありそうですね。

フランスでは3月末に外出禁止が2週間延期され、4月13日(月)の大統領演説では更に1ヶ月延長することが通達されました。3月中旬から5月中旬まで、つまり2ヶ月間、自宅に籠ることになった訳です。医療従事者、食料品供給に携わる人たちは例外です。

フランスにおけるコロナ経済対策

当初2週間実施、延長も充分ありうる、ということで外出禁止令が出た訳ですが、その間経済活動はストップする訳で、1ヶ月も収入がなければ会社や個人事業は立ち行かなくなってしまいます。経済対策とセットで行わなければ、ウイルスで死ぬ代わりに極端に言えば餓死してしまうという本末転倒になりかねません。

フランスでは従来より、会社が一時的に経営が苦しくなった場合に「部分失業」という制度があり、従業員の給与は従来の80%ほど国が負担する仕組みがあります。これが大規模に行われます。会社員はこれで収入が保証されます。

会社経営者や個人事業の場合は前年の収入の4分の1を上限として銀行借入する際に政府による返済保証を受けることができます。社会保障費の支払いは一定期間の猶予が与えられます。

日本では、収入が減って必要な世帯を対象に申請ベースで30万円の補助金が出る、1世帯につき布製マスク2枚を供給(これにより高性能マスクは医療現場のために確保、国民側としてはマスクが入手できないという状況がなくなる)、東京都はホテル(アパホテルや東急ホテル)と契約を結び軽症者用のベッドを確保。など独自の方針が打ち出されていますね。

あとがき

当初はフランスも感染および蔓延を防ぐという日本と同じ方針を採用していました。感染者数・死亡者数共に増加を続け、3月17日に外出禁止に踏み出したフランスと、感染者を低く抑えているが感染爆発の予兆を感じさせる状況で、4月7日に緊急事態宣言を出し、地域を都市部に限定して外出自粛とした日本。

パスツール研究所でBCG(結核予防のためのワクチン)が世界で初めて開発され、細菌研究では高レベルを維持するフランスでコロナウイルスに効くワクチンが開発されるのか。あるいは新型インフルエンザ用に開発された日本のアビガンが治療薬として効果を発揮するのか。アメリカの治療薬の方が効果があるのか。新型のコロナウイルスの治療法については、各国で模索状態です。

その間にも外出禁止により経済が停滞しつつあります。大戦以来の災難と言われるコロナウイルスが早く収束することを願うばかりです。